JOA Journal No40 2019.夏
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2019 AAO学会参加報告 アルツハイマー病の病因としては、加齢による体液循環の低下、代謝性老廃物の蓄積増、神経炎症、炎症誘発性伝達物質のリリース、イオンチャネルの過剰活性化(NMDA受容体など)が挙げられます。NMDA型グルタミン酸受容体は記憶や学習にも深く関わると考えられており、現在アルツハイマー病の薬物治療に用いられているのは、メマンチンとはじめとしたNMDA受容体遮断薬です。しかしこの薬には、自殺念虜などの様々な副作用もあります。一方、体液循環の低下とそれに伴う代謝性老廃物の蓄積の増加は、アミロイドβ蛋白の排出を滞らせ、アミロイドβ斑の形成に関わっていると思われています。しかし薬物療法で体液循環を促進させるものはありません。この部分の改善には薬物療法に依らない手技療法によるアプローチが効果的ではないか、と考えたことが今回の実験の端緒となったようです。 オステオパシー手技では、頭蓋オステオパシーが臨床で何十年間も使われています。そのメカニズムは十分解明されてこなかったのですが、近年脳のリンパ系に相当する機能であるグリンパティック系の存在が明らかになるなど、頭蓋オステオパシーの作用メカニズムをサポートするような構造と機能が発見されてきています。また、最近の研究で硬膜内にもリンパ管が存在することが明らかになりました。脳の実質組織から出た代謝性老廃物は、間質液を介してクモ膜下腔を流れる脳脊髄液へと入り、そこから硬膜内を通る硬膜リンパ管へも流入しているようです。オステオパシー手技によって、こうした頭部の脈管の機能を改善し、体液循環および排液を促進することができると考えられます。 実験ではマウスが使用されました。手技を実際に行ったのはヴァージニア・オステオパシー医科大学助教授で頭蓋オステオパシーの臨床経験も豊富なトビーDOですが、最初マウスへの手技について協力を依頼された時には、随分と驚かれたようです。しかしマウスの解剖学を調べ、人間にするのと同じような効果を与えることができそうだと確認できたため、実験への参加を了承したそうです。手技はCV4が使われました。コスタPhDの仮説は、CV4を行うことで頭蓋骨が動かされ、頭蓋骨下の血管に力学的刺激が与えられることで、血管にその機能であるクリアランスの仕事を正常にさせることができるのではないか、というものでした。これを検証するため、生後18ヶ月のマウス(ヒトでは60-70歳相当)と星状膠細胞が少ない遺伝子改変マウスに対して手技による介入をし、1)空間学習と記憶、2)脳の画像分析、および3)免疫学的検査が行われました。 手技による介入は7日間毎日行われ、毎朝7時に麻酔をかけた上でCV4をし、午後4時にモーリスの水迷路試験をし、迷路をクリアする時間が測定されました。その結果、4日目以降OMT群のマウスは対照群と比べて有意に短時間でクリアするようになりました。またPETによる画像分析では、OMT群でアミロイドβ蛋白の減少が確認されました。特に中脳、腹側被蓋野、海馬の3つの部位での減少が最大であり、海馬は空間記憶にも関与していることから、海馬レベルでの変化が起きた可能性が示唆されます。その後はマウスに犠牲になってもらい脳組織の免疫学的検査が行われました。まずGFAP(グリア酸性線維素タンパク質)の圧出数はOMT群でほぼ倍に増加しており、この数が多いということは、星状膠細胞がより活性化していると言えます。VEGF(血管内皮増殖因子)は脈管形成に関与する糖蛋白ですが、VEGF-CのレベルもOMT群では有意に増加していました。神経伝達物質についても、興奮性のグルタミン酸と抑制性のGABAの数値で、OMT群では有意な増加が見られました。 このように実験結果からは、1)空間記憶能力の向上、アルツハイマー病患者の脳組織にみられる特徴であるアミロイドβ斑の減少、3)これらのタンパク質などを排出する機構である脳における液体循環の向上、が確認されました。これらの実験結果はコスタPhDのCV4の治療機序に関する仮説を支持するものと言えるだろう、というのが博士の結論でした。

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